2010.06.23
夏は来ぬ
扇子や団扇(うちわ)は、一年中、スタイリストの必需品だ。
撮影の合間に、ヘアメイクの方と競争のように走り寄って、モデルさんや
タレントさんを扇ぐ。顔のまわりは髪の毛がやたら乱れたりするといけないので
おもにヘアメイクの方にまかせて、背中とか見えない部分をあおいだりする。
ここのところ、急速にむし暑くなって、自分のバッグの中にも扇子が必要になって来た。
銀座で地下鉄を降りて、目的の生地屋さん(カワムラシルク)へ向かう前に
交差点の鳩居堂にちらっと寄り道する。店内は若い女性で立て込んでいる。
毎年観る扇子や団扇だけど、私の好みが固定しているので、去年買ったのと同じ傾向の
ものを選びそうになる。
気まぐれはよそう、いつもの薄紫に桜模様のを使えばいいんだわ。
そしてカワムラにつく前のもう一つの関門、虎屋の(葛切りの)前は素通りするのよ。
何事も質素に、ガマン、ガマン。

とても大事で使えない扇子もある。
これはアンティックと呼んでいいのだろうか。昔の子供用のごはん茶碗にも
あるような、懐かしい絵が描かれている。
少年が野球をしていて、今まさにホームランでも打ちそうだ。
乱暴に扇いだらすぐ壊れそうな安っぽさも好きだ。

これは京都の名だたる宮脇賣扇庵の朱色の扇子。
くださった方は朱色の無地の色合いを美しいと思い、広げたときの
陰影を味わってほしかったに違いない。
でもミーハーな私は、その気持ちを感じつつ、金色のマジックで
三人の著名なミュージシャンにサインをお願いしてしまった。
扇子のサインの日付をみると、07・7・7とある。
この日京都の東寺で「LIVE EARTH」 地球温暖化防止活動を促進するための
コンサートが開かれ、YMOが14年ぶりに復活した。
私は自分の誕生祝いに、女友達と出かけて、歴史的なコンサートのオーディエンスの
一人となり、個人的には生涯の宝物になった扇子をゲットしたのだった。
幸宏さん、扇子ありがとう。こんなに大事にしてますよ。
高橋靖子
日本のスタイリストの草分け的存在。現在も、広告、CMなど第一線で活躍中。71年、ロンドンで山本寛斎氏とファッションショーを成功させ、その後、「ジギー・スターダスト」期のデヴィッド・ボウイの衣装を担当。鋤田正義氏によるデヴィッド・ボウイやT・レックスの撮影をアレンジしたことでも知られる。著書に『表参道のヤッコさん』『小さな食卓 おひとりさまのおいしい毎日』『わたしに拍手!』などがある。

