2011.05.27
5月6日 猫のいる町
別府の町は、いとおもしろい。
降り立ってすぐに目をみはったのは駅前の「高等温泉」
そして「青い鳥」という名の古い映画館。
大正浪漫外観の高等温泉には高等湯と並湯があって
高等湯は手ぬぐいに石鹸つきで上階にあり
並湯はなにもつかずに半地下にある。
「湯の質はおんなじ」というおばちゃんの目くばせで
わたしたちは迷わず並湯を選んだ。
青い鳥は、そろそろ役目を終えかけている感じに見えた。
わたしの育った町にも昔こんな映画館があって
百恵ちゃんの「伊豆の踊り子」や「潮騒」や
はじめてのデートで「戦場にかける橋」をみたのもそこだった。
スターウォーズに寅さんシリーズ、人気大作は一手に引き受けていたのに
いつのまにかつぶれて、つぶれたことにも気づかなかった。
ある場所が終焉を迎えるとき、気配から何となくわかるものだが
閉館したのは、わたしが東京に出てからだったのだろうか。
その後、別府の人に聞いてわかったのだが
青い鳥は住民、とくに若い人たちの手で「守られている」のだそうだ。
つぶれないように。よそよそしい新築に建て替えられないように。
それを聞いた途端に、なんて文化のある町なんだろうと思った。
戦争の爆撃を逃れた別府には、秘密めいた路地や細いくねくね道がたくさん残っていて
あてもない散歩がとても楽しい。
地熱で温かいせいか、のら猫もいっぱいいて、しかも疎まれているようには見えない。
住民ものら猫もふつうに一緒に歩いていて、おもて通りのそば屋と食堂のあいだに
まあ、こんなお愉しみもね、って感じでポルノ映画館がまぎれている。
しかし、お姉さんたちのあらわな姿のポスターに足を止めて見入るのはわたしだけで
みんな、それをあたりまえの風景として通り過ぎて行く(ように見える)のは
さすが歴史的大歓楽街としての別府の住民である。
中心から少しはずれると、昭和の面影そのままの住宅街が広がっている。
それは自分の子供の頃の日本にタイムスリップしたかのような風景で
ああ、おじちゃんちはこんな家だった、こんな長屋に住んでいる友達がいた、
遊びに行くと長屋の狭い通路にはやっぱりのら猫がたくさんいて
それぞれの家(というより戸)の庭先には本当につつましい花壇があって
花壇の横では時代ものの洗濯機がごうごうと鳴りながら揺れていた。
あのころは、みんな平屋で土に近い生活をしていたのだ。
夏は窓を開け放すから、隣の家の音やにおいもいっしょくたになって淋しくなかった。
自分は、そのころから人の生活をのぞくのが大好きだったなあと思う。
おばさんの買い物かごの中身から、その日の友達のうちの卓袱台の上を想像したり、
●●ちゃんは妹とここで寝て、おばさんとおじさんはあっちの部屋かなとか、
夜トイレに起きるとき怖そうだなとか、しじゅう頭の中でやっていたような気がする。
もしかして、わたしの天職は家政婦だったのだろうか。
(いや、家事の才能は少ないですけど、、、、)
と、話がずれてしまったが、とにかく別府は楽しかった。
旅は、まだ続きます。
鈴木るみこ
編集者。出版社勤務を経て渡仏後フリーに。仕事のテーマは、旅と詩と生活と美しいもの。みどりのゆびは授からなかったが、みどりをいじるのは好き。海と山のある町の庭つき一軒家で暮らす。

